研究概要 |
2005年7月における黒潮続流上のGPSラジオゾンデ観測に基づき,梅雨期における日本東方海洋上の海洋性大気境界層内の気温,水蒸気,風の鉛直分布を詳しく調べた.この季節における日々の地上天気図に見られる梅雨前線は総観規模スケールで活発に南北に移動するため,この海域を覆う大気特性は一般に前線の南側(北側)で高温湿潤(低温乾燥)となっていた.このような総観規模の大気の変動に対し,黒潮続流フロント近傍における海洋の中規模渦を伴った水温場はそれほど敏感に応答せず,数週間からほぼ同じ水温分布を維持していた.このため,高温湿潤/低温乾燥いずれの特性を持つ大気が黒潮続流上を覆っても,海面付近の静的安定度を示す大気下層と海面の間の温度差は一定とはならず,黒潮続流前線近傍の約34-37度の緯度帯で南北方向に約3℃程度変化する. 黒潮続流フロントを横断する鉛直断面におけるラジオゾンデ観測とシーロメータ観測の結果はこのような海面近傍の温度差の変化は海洋性大気境界層の鉛直構造を変質させ,高温湿潤の大気が覆う場合には積雲から霧を含む層積雲へのレジームシフト,低温湿潤の大気が覆う場合はcloud deckを持つstratusから薄い層雲へのレジームシフトが生じることを明瞭に示した.これらの観測事実は,総観規模で変動する梅雨前線下であっても,海洋性大気境界層の気温・水蒸気の鉛直構造は水温の影響を受けて遷移し,それに伴い雲のレジームも大きく変化することが示された.
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