研究概要 |
1.実証(バリデーション)観測と解析,システム整備と解析法の開発 調査艇だんりゅう搭載ADCPおよび他の船舶搭載ADCPによる表層測流結果が海洋レーダーによる測定と概ね一致することを散乱図(scatter diagram)で確認した。但し平均を施さない瞬時値では誤差も大きい。また理想的アンテナ・パターンを想定して信号到来方位を検出すると非現実的な流速分布を生じることがあった。よって常に実測アンテナ・パターンを用いて方位を推定する必要があることが分かる。 耐底引漁網防具を冠した底置型ADCPおよび筏に搭載したADCPにより,海面付近の境界層と海洋本体部の流速鉛直分布を同時計測し海洋レーダーと比較する観測を試験的に実施した。筏の長期係留は出来なかったがエクマン螺旋を示唆する流速分布を得た。 異なる二つのレーダーシステムを統合して流速分布を自動合成する手法を開発した。またシステムに発生した異常を感知しスタッフに報知して迅速な復旧を可能にする体制を開発・整備した。時に不具合もあるが概ね順調に稼働するようになった。 2.海洋学的知見 筏観測によれば吹送流の効果が大きい。この効果は次の問題と密接に関係している。海洋レーダーで求めた冬季の対馬海峡東水道の平均流には東向きになるものが多い。北東を向く海岸・海底地形に対し不自然である。実際,夏季平均流は確かに北東を向いている(対馬渦に当たる反流も見えるが)。この結果には(1)海洋レーダーがごく浅い海面付近の流速を測っていること,(2)海面付近では風による吹送流(含エクマン流)の効果が大きいことが関係する。更に,(a)冬季に北西季節風が強く吹き,(b)冬季に対馬暖流が弱く,(c)対馬暖流はもともと東水道で弱いという要因が重なることが原因と考えられる。今回の観測で得た知見と対馬海峡における風況気候値を基に簡単な補正を施したところ,冬季の平均流が夏期の流速分布に似てくる(大きさは違う)ことが分かった。
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