研究概要 |
本年度は金星の地上観測好期であり,12月および2月,3月にハワイに設置された望遠鏡(IRTFおよびすばる望遠鏡)を利用した地上観測を行なった.以下に,観測の主題および結果を示す. (1)近赤外スペックル観測による金星雲層微細構造観測 IRTFの赤外分光撮像装置を利用し,波長2ミクロン帯において金星雲層の水平分布を撮像観測した.地上観測の空間分解能は一般的に地球大気の揺らぎ(シーイング)の制約を受けるが,本研究で採用したスペックル観測は,その大気揺らぎを解析的に補正するものである.現在,空間分解能をシーイングによる限界よりも2倍以上向上させる画像処理を行なっている. (2)近赤外高分散分光観測による金星大気光の観測 IRTFの高分散分光器を用いたスキャン観測により,1.27ミクロン帯酸素分子大気光の水平分布と分光情報を同時に得た.安定した大気により多数のデータセットが得られ,短い時定数の議論が可能になった.高分散のスペクトルからは酸素分子の回転温度を導出でき,現在,各大気光分布に対応した温度分布を求めている.本研究は,世界で初めて強度・温度分布両方の時間変化を示し,金星上層大気の力学・化学を議論する. (3)すばる望遠鏡を利用した中間赤外撮像観測 すばる望遠鏡を利用し,中間赤外領域において金星の雲頂高度の大気の温度分布を撮像観測した.この波長域においては,シーイングの影響が小さくなり,望遠鏡の理想的な最大空間分解能である回折限界の画像が得られる.すばる望遠鏡の口径8mという利点を最大限に利用し,金星雲頂高度において100-80kmの空間分解能を達成した.これほどの高空間分解能で金星全球を撮像したのは本研究が初めてである.過去の飛翔体観測で示されていた極域付近の局所的な高温部分が観測されたのに加え,これまでに観測例の無い太陽方向に特定の傾斜を持った太陽同期の波動構造が可視化された.
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