研究概要 |
本年度は,ハワイに設置された望遠鏡(NASA赤外望遠鏡およびすばる望遠鏡)を利用した地上観測によって昨年度取得したデータの解析を進めた. (1)金星下層雲の時間変化を利用した雲移動量の評価 金星夜面の波長2μm撮像画像では下層雲の光学的な濃淡分布が観測される.本研究では,観測方法を工夫することで日没前から3時間に渡って金星を観測した.それにより,雲の濃淡構造の時間変動の検出を実現し,その移動量から風速70±30m/sの西向き帯状流の存在を示した.これは,過去の飛翔体探査の結果と一致するものである. (2)金星上層大気中の大気光発光強度の時間・空間変動 波長1.27μmでの高分散分光撮像を行なうことで,酸素分子大気光の発光強度分布および回転温度の分布,そしてそれらの時間変動を取得した.この大気光に関しては,今まで主に真夜中地点での発光が知られていたが,本研究によって夜面の広い範囲に渡って複雑な発光強度分布をしていることが確認された.日変化も確認されており,金星上層大気の激しい変動性の観測的裏付が得られた. (3)金星雲頂での微細空間構造の可視化 すばる望遠鏡の大口径を利用して得られた空間分解能100km相当での波長10μm熱放射強度分布画像に対し,高周波フィルター等の画像処理を適用することで,数Kの輝度温度の振幅を世界で初めて抽出した.輝度温度変動を物理的に解釈すべく,雲の散乱効果を取り入れた放射伝達方程式を解く計算モデルを構築した.その結果,数Kの輝度温度振幅からは,雲頂高度が局所的に数100mの振幅で変化していることが示された.この振幅は,雲層上部において生じた対流によって生成していると考えられ,今まで未解明であった金星雲層での気象現象に新たな知見を加えるものである.
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