本年度2007年8月の金星内合前後に、ハワイの望遠鏡(すばる望遠鏡およびIRTF望遠鏡)を利用して金星大気を観測した。また将来の惑星大気観測に向けて観測装置開発やデータ解析手法の研究を行った。(1)大気中HCI濃度の緯度分布観測金星大気の主成分であるCO_2は紫外線を浴びてCOやO_2に分解されるが、現実の金星大気にはCOやO_2が少ない。この理由としてHCIによる触媒反応が挙げられているが、金星におけるHC1の挙動は謎に包まれている。そこでIRTFの近赤外高分散分光器を用いてHCIを観測し、その空間分布を明らかにしてCO_2再生成過程を制約した。(2)雲頂構造の時間変動観測すばる望遠鏡とIRTF望遠鏡により金星の雲頂からの熱放射を中間赤外波長で観測し、水平スケール数100kmの微細構造の時間変動を世界で初めてとらえた。ここから、雲層内の熱対流の性質や惑星規模の波動の伝播について新たな知見を得た。また、ほぼ同時に取得した分光データから大気温度や雲粒密度の立体構造を導出した。(3)PLANET-C搭載赤外検出器の耐放射線試験惑星探査機に搭載される機器は宇宙空間で降り注ぐ放射線に耐性を持つ必要がある。そこで、日本の金星周回衛星Planet-Cに搭載されて大気観測に用いられる予定の赤外検出器の放射線照射試験を行い、暗電流変動の定量的評価およびその対策を考案し、検出器の搭載に道を開いた。(4)連続画像からの風速場導出手法の研究地上望遠鏡やPlanet-Cによる将来の惑星大気観測を想定して、高空間分解能の連続画像データから風速場を導出する手法を研究した。時間を隔てた画像間で微細構造を追跡することにより風速ベクトルを求められる。従来使われてきた手法に誤ベクトル除去などの改良を施し、気象学で必要とされる数m/s以下の計測誤差を実現可能とした。
|