研究概要 |
淡水成炭酸塩堆積物であるトゥファを題材に,陸域古気候を定量的かつ高解像度で解析する「トゥファ古気候学」を展開するために,岡山県阿哲台などに分布する堆積場において採集した水や堆積物試料を分析・観察した.その結果,気候条件(気温・降水量など)がトゥファの安定同位体比や微量元素に記録されるプロセスは,地域を問わず適用できるものと,地域差があるものに大別できることが解った.1)縞状組織は多くの場合,水温変化を反映した方解石の沈殿速度の季節的変化が原因で発達する(Kawai et al.,in printing)が,表面に生息する微生物群集変化にも関係している.2)酸素同位体高解像度曲線は水温の季節変化を反映するが,それから得られる水温の計算値の誤差は1〜5℃であり,場所によって異なる.3)岡山県新見市の試料中にある褐色バンドは,降雨イベントを記録しているが,同様の記録が他の地域から得られた.4)Mg/Ca比を温度の指標として用いるのは困難である(Kawai et al.,in printing).5)炭素同位体高解像度曲線の季節変化は地下空間の閉鎖性と強く関連しており,開放的な地下空間を持つトゥファ堆積場では,季節的周期が乱れて記録される. このほか,古気候記録を解読するために,広島県帝釈峡の遺跡試料の中に含まれるカワニナ遺物の解析を行い,約5千年前に寒冷化があった事を示した(狩野ほか,印刷中).また,温泉沈澱物であるトラバーチンの研究(高島・狩野,2005)も行い,沈澱速度や微生物プロセスについてトゥファと比較した.これらの研究を遂行するにあたり,設備備品として購入した,蛍光顕微鏡と光学顕微鏡が大いに役立った.
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