研究概要 |
淡水成炭酸塩堆積物を題材に陸域古気候の解読をめざした本研究の最終年度には,「トゥファ古気候学」の集大成として,1)トゥファの縞状組織形成プロセスの一般性と地域性,2)高解像度の安定同位体記録の乱れについての検討を重点的に行った。 西南日本と琉球列島の数地点で行った研究では,方解石の沈澱速度の季節変化に由来したトゥファの年縞は水のCa濃度が60mg/L以下の条件で明瞭になることが示され,それ以上の濃度になると,水量の増減が縞状組織に反映されやすくなることが示された(Kawai et al.,2009)。また,愛媛県西予市の試料などで示されていた酸素・炭素同位体比の規則的な周期的変動が別の地点では乱れることも明かにされた。水源である地下水塊の規模が小さい場合,水の酸素同位体比が大雨などの原因により不安定になり,高解像度プロファイル上でパルス的変化が記録される。反対に,水塊の規模は大きくなると,地下でのガス交換が制限され,湧水の炭素同位体比に明瞭な季節的変化が発達しない,この場合,トゥファの炭素同位体比は,水量と逆相関する地上での脱ガス効果に支配され,水量の増減をパルスとして保存する(Hori et al.,2009)。 また,本年度は,本格的に鍾乳石の分析を行い,広島県北東部と滋賀県東部で採集した試料について成果が挙がりつつある。陸域古気候の研究題材として淡水成炭酸塩堆積物(トゥファ・鍾乳石)の重要性が再認識された。
|