研究概要 |
2003年北海道日高地方で台風10号に伴って発生した洪水により河川から海域に供給された土砂の海域での堆積過程と海底環境への影響を解明するため.日高節陸棚から陸棚斜面域の調査と河川懸濁物の採取を行った.沙流川沖では内側陸棚に氷期の河川跡の名残である凹地が存在しこの凹地内に洪水起源の泥が分布している.柱状に採取された泥の有機物組成は陸源有機物に富んでいる.また,この泥には薄い砂層が挟在し.粒度組成、堆積構造はこの堆種物がハイパーピクナル流から堆積したものであることを示唆した.泥にはセシウム137が含まれており.大気中核実験の開始以降の堆積物であることが確認された.この洪水を発生させた降水が少なくとも60-70平に一度のイベントであることから,この泥は2003年の洪水により堆積したものであると考えられる.この凹地の沖合張番上の陸棚斜面中部から採取りされた堆積物表面には,砕屑物粒子に富む陸源有機物を多く含む泥が認められ,これも2003年の洪水時に堆積したものと考えられる.河口沖の内側陸棚に凹地が存在する場合,懸濁粒子を多量に含んで重くなった洪水時の河川水は河口前面で密度流を形成し,凹地に沿って沖合に土砂を輸送する.凹地の存在は泥水の拡散を抑制し,泥水の密度維持に貢献し.結果として洪水時に海域に排出された土砂を外側陸棚から斜面,さらには海盆底へと輸送する.このことは洪水時に海域に供給された土砂の各距離輸送にはパイパーピクナル流の形成が重要であり,また陸棚の海底地形がその維持に重要であることを示した.一方で,洪水直後に内側陸棚の凹地外に堆積した泥はその後の波浪や沿岸流で再移動し,消滅している.このことは波浪や沿岸流が卓越する場での洪水泥の保存ポテンシャルが低いことを示唆し.内側陸棚の堆積環境の違いが洪水時の泥の堆積が海底環境に与える影響に大きく関与していることが明らかとなった.
|