研究課題
地震発生深度で形成された四万十付加体のシュードタキライトを対象に、反射電子像と透過型電子顕微鏡による変形組織観察、未熔融粒子画像解析、電子線マイクロアナライザーによる熔融マトリックスの化学組成定量、摩擦熔融層の粘性率、動的せん断応力、冷却時間の定量、熔融温度と摩擦熔融時のエネルギーの見積を行い、次の成果を得た。(a)これまで曖昧であった摩擦熔融・急速冷却に特有の変形組織を付加体シュードタキライトで初めて明確に見出した。(b)摩擦熔融層の幅は狭いため急速冷却し、地震すべり面は短時間でヒーリングされる。(c)摩擦熔融による温度上昇量は少なくとも850-920℃である。(d)付加体シュードタキライトは主として含水粘土鉱物であるイライトが熔融して出来ており、摩擦熔融時の粘性率は低く(85-290Pa s)、動的せん断応力も低い(0.1-30.3MPa)。(e)摩擦熔融に伴う単位面積あたりのエネルギー(EH)は約3×10^6Jm^<-2>である。これらのことから、地震発生深度において摩擦熔融層が形成されると断層の強度は劇的に低下して、地震性すべりを加速させ、局所的に大きな応力降下を引き起こすことが明らかとなった。また、四万十付加体のシュードタキライト産出断層近傍から採取した頁岩試料を用いて、低垂直応力(2.7-13.3MPa)下で高速せん断実験を行い、摩擦熔融時の力学特性を検討した。その結果、せん断変位とともに摩擦熔融層の幅が増加するにもかかわらず、せん断強度は増加することが明らかとなった。このことは摩擦熔融層の粘性率の増加を意味している。その成因として、摩擦熔融に伴って粘土鉱物から水が脱水・揮発して熔融層中に気泡が形成されることがあげられる。低垂直応力下では熔融層に占める気泡の割合が大きく、そのため粘性率が増加しせん断強度が増加すると考えられる。つまり浅い深度の断層では、地震時に粘土鉱物が摩擦熔融すると、すべりを停止させる方向に作用することが明らかとなった。
すべて 2007 2006
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Journal of Structural Geology 29・4
ページ: 599-613
Earth and Planetary Science Letters (In Press)
地学雑誌 115・3
ページ: 353-366