研究概要 |
シャコガイ殻を用いて熱帯・亜熱帯海域の環境変化を日単位で復元するために,分析手法の開発およびシャコガイ殻の炭素・酸素安定同位体比,成長線の幅,金属元素濃度比と生息環境の定量化を行った.その結果を化石シャコガイ殻に適用して,過去の環境復元を試みた. シャコガイは一般に,約10齢以降その成長量が激減するため,日単位の環境復元を行う際には,10齢程度までに成長した骨格が適している.また,炭素・酸素同位体組成には,骨格部位(内層・外層・蝶番)による差は認められず,酸素同位体比に関しては海水とほぼ同位体平衡下で沈積する.最も側方への連続性が良い内層の10齢程度までの骨格を,本研究で開発したマイクロダイセクターを用いた精密サンプリングおよび分析手法を用いて分析することにより,日単位の同位体組成変化を明らかにすることが可能であることを示した.シャコガイ殻の日輪幅を規制している環境因子を考察し,その主要因が水温と日射量であることを明らかにしたが,両者の寄与を独立に求めることは現時点では困難である.分光器の増設により測定精度が著しく向上したICP-AESを用いて,岩石標準試料(JCt-1)および石垣島産の化石シャコガイ殻のSr/Ca・Mg/Sr比を分析した結果,シャコガイ殻の両元素濃度比が,造礁サンゴの両元素比に比べて著しく低く,また,シャコガイ殻では明瞭な年周期変化を示さないことが示された.シャコガイ殻におけるこれら金属元素濃度比は成長段階と関係しており,また,サンゴ骨格の平均的な濃度比と大きな差が認められた.また,酸素同位体比に関しては,シャコガイ殻はほぼ同位体平衡下で,造礁サンゴ骨格は同位体非平衡下で形成される.これらのことから,両者の骨格形成メカニズムが異なっていることが予想される.この骨格形成メカニズムの差異は,両生物の骨格を利用して古環境の詳細な復元を行うためにも,今後の検討課題の一つとなる.
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