研究概要 |
本研究の目的は,北太平洋沿岸域の前期漸新世後期〜中期中新世後期に知られる束柱類の頭蓋と下顎骨および多数の歯を材料に用いて,従来の咀嚼における顎運動の機能形態学的復元に加えて,(1)歯の表面に残された微小摩耗痕に基づいて,基本的な咀嚼運動の方向の推定を行ない,(2)歯のエナメル質の炭酸塩鉱物の酸素と炭素それぞれの安定同位体比から生息環境と索餌内容を推定し,さらに(3)食物連鎖の中での栄養段階(トロフィックレベル)の指標となるストロンチウムなどの微量元素量を検索することで,束柱類の食性,ひいては束柱類の生活史に関して最終的な解答を得ることを目的とする. 本年度は,代表者と研究分担者がそれぞれ所属する国立科学博物館と神奈川県立生命の星・地球博物館および他の機関に所蔵されている束柱類の歯の咀嚼面の精密なビニルシリコンモールドを作成し,新たに国立科学博物館に設置した超深度形状測定顕微鏡(VK-8510)を用いて咀嚼面の微小摩耗痕を二次元デジタルデータに変換して分析した.その結果,束柱類は基本的に下顎の側方運動によって咀嚼を行なっていたが,デスモスチルス・ヘスペルスだけは他とは異なり下顎の前後運動によって咀嚼を行なっていることが明らかとなった.また,代表者および研究分担者は研究協力者の米田 穣と鵜野 光と共に,臼歯標本から抽出した炭素と酸素の安定同位体比および微量元素の組成を分析した.その結果,デスモスチルスとパレオパラドキシアは,共に汽水域に生息していたことが明らかとなった.また,デスモスチルスはパレオパラドキシアよりも,相対的に栄養段階の高い餌資源を利用していたことが明らかとなった.これらの成果は,第4回国際水生四肢動物学会議(Kohno,2005),日本古生物学会2005年年会(樽・甲能,2005),日本進化学会第7回大会(鵜野ほか,2005),日本古生物学会第155回例会(甲能ほか,2006)にて発表した.
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