研究概要 |
伊豆小笠原マリアナ弧の海底カルデラを生じる珪長質マグマ(流紋岩、デイサイト)の成因をまとめた論文を執筆した(Journal of Petrology,in press)。この論文は伊豆小笠原マリアナ弧の北部伊豆弧(南北に沿って550km)において、(1)第四紀に三種類の流紋岩マグマ(R1:火山島の流紋岩、R2:海底カルデラの流紋岩、R3:リフト帯の流紋岩)が生じていること、(2)それぞれの流紋岩は系統的に主要元素、微量元素、希土類元素パターン、Sr,Nd,Pb同位体比などが異なること、(3)R1は第四紀の玄武岩マグマと共通性を持つが、R2は漸新世のマグマに類似していること、を明らかにした。これらの結果より、以下のモデルを導き出した。玄武岩主体の火山島の地下において地殻が成長しているが、新しく成長した地殻を溶かして流紋岩R1を噴出する。玄武岩火山と玄武岩火山の間においてはマントル中に熱源(hot fingers)が存在せず、新しい地殻も成長しない。しかし、玄武岩火山から派生する長距離岩脈により古い漸新世の中部地殻がとかされ流紋岩R2が生じる。このモデルは伊豆弧の地殻構造と第四紀火山に噴出するマグマの相関関係を説明する斬新なものである。 Isse et al.(2009)においては全長2800kmにおよぶ伊豆小笠原マリアナ弧の火山フロントに沿ったSr,Nd,Pb同位体比の変動とマントルウエッジにおける地震波の三つの速度異常が対応していることを見いだした。これは最新の地球物理データと地球化学データとを組み合わせた結果であり、かつ誰もが予想していなかった非常に興味深い結果である。最近の沈み込み帯の地球科学におけるブレークスルーのひとつと自負している。
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