研究概要 |
本研究では,地震波のトモグラフィーにより深部のマントルから上昇するプリュームに関係していると考えられる海洋島の火山岩に,コア-マントル相互作用の地球化学的証拠が存在するかを検証する.コアとマントル間に同位体の差があると予想される,182ハフニウム-182タングステン,107パラジウム-107銀の壊変系を用いることを予定している. 今年度は,前年度までに開発した精製法を用いて,ツブアイ,ルルツ,ラロトンガ,マンガイアなどの南太平洋の海洋島から採取した玄武岩の,タングステン同位体比分析を行った.いくつかの岩石試料についてICP質量分析計を用いたタングステン同位体比測定の再現性について検討し,182W/183W比が0.4ε程度の精度で測定可能なことを確認した.各試料については,タングステン同位体比のみではなく,鉛同位体比,タングステンを含む微量元素濃度を測定した.20以上の岩石試料を分析したが,コア-マントル相互作用の痕跡を示す,タングステン同位体比の異常は認められなかった.試料中のタングステン濃度から推定したマグマの起源物質のタングステン濃度とタングステン同位体比の測定精度,コアのタングステン濃度と同位体比の推定値から,今回測定した岩石試料に含まれるコア物質は1%以下であると考えられる.この結果は,1)南太平洋の海洋島玄武岩のマグマソースはコア-マントル境界から上昇したものではない,2)コア物質からのタングステンの寄与による同位体比変動が,マグマの上昇中におこる周囲のマントル物質との混合により希釈された3)コア-マントル相互作用ではタングステンがコアからマントルへ移動しない,などの可能性が考えられる.この結果は現在,投稿論文にまとめているところである.タングステン濃度が薄い試料についての分析法の開発も行っている. 並行して進めている,パラジウム-銀壊変系の分析のための,銀の精製法についても検討を続けている.収率をあげることはできたが,化学的精製の際に混入する有機物の影響で正確の同位体比測定を困難にしていることを発見した.来年度引き続き改良を行い,実試料の分析につなげる予定である.
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