本年度前半は、当初の予定に基づいて米国Colorado大学のW.Carl Lineberger教授の研究室に滞在して原子分子クラスター負イオンの光電子画像分光法に関する共同研究を行った。画像分光法は全立体角に放出された粒子を検出器に投影した像を観測する手法であり、本研究計画における光解離放出角度分布の観測に最適な手法である。今後、この共同研究で習得した技術や知見を具体的に生かすために、新たな観測装置の開発を目指して構想を練っていく予定である。 本年度後半ではマグネシウム-価イオンと四種類のハロゲン化メチル(フッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル)との組み合わせで生成する気相錯体に対して、紫外光誘起解離イオンの飛行時間分布の観測を行い、その結果の解析を行った。観測されたイオンの飛行時間分布には(1)解離イオンの反跳エネルギー分布、および(2)解離イオンの放出角度分布の二つの情報が含まれている。前年度に提唱した我々の光励起解離過程に基づいて、観測された飛行時間分布からこれら二つの情報を分離して得ることを試みた。その結果、いくつかの解離イオンについて極めて非統計的な反跳エネルギー分布を取ることが明らかとなり、我々の予想したとおり錯体イオンの回転周期に比べて極めて速い過程で解離が進行していることがわかった。さらに具体的に錯体イオンの回転周期を見積ることにより、放出角度分布の情報が回転運動によってどの程度解消されているのかについても解析を行った。その結果、観測された異方性パラメータ(放出角度分布の偏りを表すパラメータ)をうまく支持する見積りが得られた。
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