大気成分中でOH生成の定量的基礎データの取得が基礎化学と大気化学にまたがる重要な問題としてその解決が求められている。本研究では低温マトリックス単離・赤外吸収分光法でオゾン-水錯体の分光と光反応について調べるため以下の実験を行った。 Arマトリックス中でO_3とO_3-H_2O錯体のv_3振動の赤外吸収スペクトルを測定した。紫外光照射前に観測される2つの錯体バンドは2種類の異性体によるものが観測された。理論計算によると錯体構造として3種類の異性体の存在が予想されている。実際、紫外線253.7nm照射によりこれら2種類の異性体(dipole型とtrans型)は減少して、代わりにO_3-H_2O錯体の第三の異性体(cis型)が出現することが見出された。O_3-H_2O錯体の3つの異性体間の光異性化反応は、紫外線照射同様、可視光632.8nm照射でも起こることが分かった。一方、紫外線照射ではH_2O_2の生成が確認された。その生成過程として、O_3-H_2O錯体の関与する生成過程の他に、単離したO_3の光分解で生成するO(^1D)がH_2Oと反応してできるもう一つの過程があることが見出された。これらの過程をさらに明らかにするためには、単離したO_3の光分解でO(^1D)が生成しない励起波長での光照射実験が必要である。 Neマトリックス中で、O_3-H_2O錯体の吸収は1045.2cm^<-1>および1598.2cm^<-1>で観測された。さらに、O_3-H_2O錯体に355nmを照射することでH_2O_2が生成した。O_3-H_2O錯体の減少速度とH_2O_2の生成速度の関係から、355nmの光照射によるH_2O_2生成はO_3-H_2O錯体の光化学反応によるところが大きいと結論した。
|