低温ネオンマトリックス単離赤外吸収分光法を用い、オゾン-水錯体およびOH-水錯体の赤外スペクトルを帰属した。錯体形成による赤外吸収波数のシフトからオゾンの中心酸素原子と水の酸素が接する配置で、またOHラジカルのH原子が水との分子錯体を形成していると推論した。量子化学計算の結果からはオゾン-水錯体の安定構造は唯一double-decker型であり、またOH-水錯体の安定構造はOHが水素結合供与体であり、赤外スペクトル解析から推論された構造と一致する。固体ネオン中で得られた本研究結果は、気相大気における錯体の検出及び紫外吸収スペクトルの帰属のための基礎情報となる。 低温マトリックス中におけるオゾン-水錯体の紫外光誘起の反応を調べ、本錯体の大気化学における寄与を検討した。紫外光照射により、オゾン-水錯体の減少及び過酸化水素の生成が観測され、波長依存性及び化学量論的考察等から、本実験における過酸化水素生成は大気光反応でのOH生成に対応すると結論した。決定した結合エネルギー及び分光学的情報を基に、錯体形成の平衡定数を計算している。オゾン-水錯体形成による紫外光領域での吸収係数、O(^1D)収率等の見積もりから総合的に判断すると、オゾン-水錯体からのOH生成量はオゾン単体からの生成量の0.01〜0.1%程度であり、地球大気に与える影響は小さいと推論した。
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