研究概要 |
溶液内での光化学過程を研究する上で、異なる電子状態に対応する自由エネルギー面間の円錐交差は本質的な役割を果たす。本研究では、RISM-SCF法に基づき非平衡溶媒和の下での自由エネルギー面を求めるため、線形応答自由エネルギー面を定義し、異なる自由エネルギー面間の最低自由エネルギー交差点を求める方法を開発、提案を行った。更に、この方法を水、メタノール、アセトニトリル中でのエチレンとCH_2NH_2^+の光異性化反応に適用し、非平衡溶媒和の役割を明らかにした。また、アセトニトリル中でのN,N-ジメチルアミノベンゾニトリル(DMABN)の励起状態における分子内電荷移動反応を取りあげ、RISM-SCF法により基底、励起状態のジメチル基の内部回転角と面外変角に対する自由エネルギー面を求めた。結果、分子内電荷移動状態からの発光は、平面型電荷移動状態からではなくtwisted intramolecular charge transfer (TICT)状態からであることが確認された。また、電荷移動状態を生成する機構を明らかにすると共に、反応の活性化障壁の高さを見積もった。 溶液内での電子励起状態の緩和過程のダイナミックスを明らかにするため、Ni^<2+>水溶液を取り上げた。先ず、Ni^<2+>水溶液の基底、励起状態のポテンシャル面を与える有効ハミルトニアンを構築し、電子吸収スペクトルの実験結果を良く再現することを確認すると共に、光吸収により生成された3番目の励起状態からの電子緩和のダイナミックスを分子動力学法に基づく、Fermi黄金律およびsurface hopping trajectory法により調べた。結果、第1励起状態への緩和は数十フェムト秒の時間で起こり、そこから基底状態への緩和は数百ピコ秒かかることが分かった。これは、実験結果と良く対応する結果である。更に、電子緩和過程におけるelectronic decoherenceの効果について考察を行った。 更に、生体分子に関する研究課題では、Fe_2S_2クラスターの電子状態とスピン構造について、RISM-SCF法と多体摂動理論に基づく研究を行い、還元過程における溶媒和の役割を明らかにした。
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