メリリアニンは2002年にトウシキミの果皮より単離された三つの第4級不斉炭素を含む五つの連続した不斉中心を有する三環性のセスキテルペンであり、構造化学的および合成化学的に興味深い化合物である。加えて、トウシキミの樹皮・果実は古来よりリュウマチの治療薬として利用されることから、その成分と薬理活性との相関解明は急務な研究課題である。そこで我々は、様々なメリリアニンの派生体供給を目的とする合成ルートの開拓を目指し、入手容易な中間体を利用したペルオキシデメチルメリリアニン還元体の人工合成法の確立を試みた。 まず、出発原料としてペンタエリトリトールを用い、3工程を経てジチオアセタールへと誘導した。これと、もう一方のフラグメントであるヨード化合物をジチアンカップリングにより連結し、得られた縮合体から導かれるアルデヒドに対して、Wittig反応を行った。さらに、成績体の脱保護を行うことで、分子内にアルドール構造を有する不飽和エステルを調製した。引き続きオキソ不飽和エステルにヨウ化サマリウム(II)を作用させ還元的な分子内カップリングを試みたところ、サマリウムのキレーション効果により、シクロペンタン置換体をジアステレオ選択的に合成することができた。多置換シクロペンタンの保護基を変換した後、セレノ化、続く酸化反応により不飽和エステルへと誘導した。その後、数工程を経て、不飽和5員環ラクトン部位を構築し、得られたアシロキシ不飽和ラクトンに対して強塩基であるLHMDSを作用させて分子内マイケル反応を行ったところ、メリリアニンの主骨格となる三環性化合物を良好な収率で得ることができた。続いて全ての保護基を除去することにより、目的物であるペルオキシデメチルメリリアニン還元体の全合成を完了した。
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