研究課題
本研究の目的は、酵素の活性中心を模倣した「水溶性ヒドリド硫化物錯体」を独自のアイデアに基づいて設計・合成し、水素発生と窒素還元が共役する触媒反応系を開発することである。自然界におけるアンモニア合成は、ニトロゲナーゼにより、窒素分子をアンモニアに常温・常圧下で変換する。ニトロゲナーゼの触媒活性部位は対称中心を持たないダブルキュバン骨格を有する硫化物クラスター構造である。ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、常に水素発生を伴う。一方、自然界で水素を活性化する酵素であるヒドロゲナーゼは大きく2種類に分類できる。活性中心にニッケル(Ni)イオンと鉄(Fe)イオンを含む[NiFe]ヒドロゲナーゼと、2つのFeイオンを含む[FeFe]ヒドロゲナーゼである。1995年にFontecilla-Camps(フランス)らによって、[NiFe]ヒドロゲナーゼ(D.gigas)の結晶構造が明らかにされた。その活性中心の構造はシステイン由来の2つのイオウ(S)配位子と、1つの謎の配位子(X)がニッケルと鉄を架橋していることが示された。しかし、謎のX配位子は水素を活性化する前は水(H_2O)又は水に由来したイオン(OH^-またはO_2^-)であり、水素を活性化した後は、ヒドリドイオン(H^-)になると推測されたが、その詳細は今日まで不明であり、ヒドロゲナーゼによる水素活性化の作動原理は謎に包まれていた。本研究では、鉄の代わりに同族元素であるルテニウム(Ru)を用い、X配位子として水を有する[NiRu]アクア錯体を合成した。そして、その[NiRu]アクア錯体と水素を水中・常温・常圧で反応させ、ヒドロゲナーゼの活性化状態のモデルとなる、x配位子にヒドリドイオンを有する[NiRu]ヒドリド錯体の合成に初めて成功した。
すべて 2007 2006
すべて 雑誌論文 (4件)
Journal of Organometallic Chemistry 692・1-3
ページ: 499-504
Science 316・5824(in press)
Dalton Transactions (Cover Picture) 39・
ページ: 4657-4663
Organometallics [ACS, 2006 Most-Cited Article] 25・2
ページ: 331-338