研究概要 |
2004年、私たちは、3d金属イオンと4f金属イオンからなる異種金属多核錯体の普遍的な合成方法を報告した(Chem.Commun., 2004,1048-1049)。3d金属錯体を配位子として4f金属イオンに配位させるこの方法は、強磁性的な3d-4f間の相互作用をもたらすだけでなく、反強磁性的になりやすい3d-3dあるいは4f-4f間の相互作用を排除することができ、なおかつ、分子設計を行いやすい有用な方法である。 17年度はこの手法を利用して三脚型6座配位子(H_3L^1)を含むNi^<II>錯体を配位子とし、各種ランタニドイオン(Ln^<III>)との反応で得られる2、3、4核の3d-4f系錯体の構造と磁性に関する研究を中心に行い、わずか2核のNi^<II>-Dy^<III>錯体で単分子磁性体となる兆候を捕えた。 しかし、この錯体系には[Ni(L^1)]^-のフェノール性酸素の架橋能力が比較的弱いため、最も興味深い3核錯体、Ni^<II>-Ln^<III>-Ni^<II>の合成が容易ではないという問題があった。さらに、結晶構造を検証したところ、分子間にπ-πスタッキング相互作用が存在し、単分子磁石となることを阻害していることが明らかになった。そこで18年度は、Ln^<III>が配位原子として酸素を好む点に着目し、ベンゼン環にメトキシ基を導入した新規配位子H_3L^2を用いて一連の研究を行った。その結果、目的とした3核錯体を高収率で合成できたばかりでなく、立体効果により分子間の相互作用も除去することに成功した。さらに3d金属イオンとして大きな磁気異方性を有するCo^<II>を用い、[Co^<II>(L^2)]^-を錯体配位子として合成したCo^<II>-Dy^<III>-Co^<II>錯体は、従来の配位子H_3L^1を含むNi^<II>-Dy^<III>-Ni^<II>錯体より高い磁化反転エネルギー障壁をもつ単分子磁性体であることが明らかになった。成果の一部は、錯体化学討論会およびポーランドにおける国際学会にて発表し、現在、論文投稿準備中である。
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