研究概要 |
今年度は、重金属イオン検出用マスプローブの研究を重点的に行った。 マスプローブとは、質量分析用のラベル化試薬である。マスプローブを用いたイオン化法を、MPAI法(MS-probe aided ionizaion)と呼び、このMPAI法により、ESI-MSで重金属イオンの定量測定を行うことを目的とした。 重金属イオン分析のためのマスプローブとして、複数の分子の設計と合成を行った(KHM-1〜15)。開発した各マスプローブを用いて重金属イオンとの反応を行い、そのESI-MS測定を行った。その結果、KHM-2は2価重金属イオンに対し、KHM-7,9は3価重金属イオンに対し、特異的な応答を示しことから、これらがマスプローブとして有効であることが分かった。これは,アニオン性官能基であるカルボキシル基を、価数に応じてプローブ末端に導入したことにより、多価検出できなかったイオンを、1価錯体ピークとして検出できたことによる。また、種々の重金属イオンに対して、中程度の選択性を有する、2,2'-ジピコリルアミン骨格やアザクラウンエーテルを配位サイトに用いることで、一度に複数の重金属イオンを分析することを可能にした。 このラベル化試薬を作ることにより、これまで障害となっていた重金属イオンの検出法を解決することができ、質量分析計を用いて、μMオーダー以下の極めて高感度、高精度に検出することが可能になった。 RoSH指令で使用が制限されているPb2+, Cd2+, Hg2+について、MPAI法によるESI-MS測定は同時に定性・定量分析が可能であることを実証し、MPAI法は優れた重金属イオン分析法であると言える。本研究のように検体に応じたマスプローブを創製することによって、バイオ分析、さらには環覓分析など幅広い分野に用いられることが期待される。
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