研究概要 |
今年度は、チオカルボニル基とピリジニウム環との相互作用を利用した、配座変換型有機触媒の合成を行った。本触媒の特徴は、反応の個々の段階に応じて触媒の立体配座が変化する点であり、これにより反応性と選択性を両立できるものと考えられる。種々の第二級アルコール類の不斉アシル化による速度論分割を行うと高い選択性で反応が進行し、触媒量を0.05mol%にまで減らしても十分な選択性が得られた。さらに、メソジオール類の非対称化反応も良好な選択性で達成することができた。このことから、本触媒は目的通りの機能を有するものと考えられる。触媒の構造変化は動的NMRを測定することで、ピリジニウム塩の場合には固定された配座を有することを明らかにした。また、中間体のピリジニウム塩のX結晶解析により、チオカルボニル基とピリジニウム環とが接近していることから、相互作用の存在を明らかにした。 カチオンーπ相互作用を利用した面選択的付加反応についても検討した。カチオンーπ相互作用に基づくピリジニウム塩への面選択的付加反応はすでに報告しているが、今年度はこれまで報告例のないアリル化反応を検討した。その結果、アリルスズ試薬を用いると位置及び立体選択的に2位に付加した1,2-ジヒドロピリジンが良好な収率で得られた。一方プレニルインジウム試薬を用いると高い立体選択性で1,4-付加体のみを与えた。生成物の絶対立体配置はX線結晶解析により明らかにした。 以上のように今年度はカチオンーπ相互作用作用を利用することで(1)新規有機触媒の合成と反応(2)面選択的アリル化反応を達成した。
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