研究概要 |
CF3基中のフッ素原子の特異的性質が医薬品の薬理活性発現や増強など好ましい結果をもたらす事実は,現在,医薬品世界売り上げTop30にフッ素含有医薬品が7品目エントリーしているという数字からも納得でき,液晶材料としてのCF3化合物の成功も有名である。そのため不斉CF3化反応の開発研究が盛んに行われている。1989年Prakashらがトリフルオロメチル化剤,TMS-CF3を開発したのを契機にいくつかの不斉CF3化反応が報告されているが,16年たった今でも不斉収率は50%を越えていない。そこで我々は,不斉反応を志向したCF3化反応の探索を行った結果,KF-アンモニウム塩を用いた対イオン交換法,ルイス酸触媒を用いたCF3化反応の開発に至った。一般にカルボニル化合物のCF3化反応は,触媒としてテトラブチルアンモニウムフルオリドやセシウムフルオリドのようなフッ化物イオンを用いて行うが,これらの試薬は高価であり,潮解性も高く,取り扱いが困難であるという問題がある。また,安価なフッ化カリウムを使用する場合は,極性の高いDMFを溶媒に用いる必要がある。そこで我々は,テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)とフッ化カリウム(KF)と組み合わせることにより,系内でTBABの対イオンのブロミドをフルオリドに変換させ,穏和な条件下で非極性溶媒中での触媒的CF3化反応が進行することを見出した。本反応は安価で安定なTBABを用いるこれまでにない触媒的CF3化反応であり,その工業的意義は大きい。続いて,ルイス酸触媒を用いたCF3,CF2化反応の開発を検討した。ルイス塩基による触媒的CF3化反応を見出したが,不斉合成への展開する際に,ルイス酸で実施するほうが,利用できる触媒の種類を考慮に入れた場合,汎用性が高い。そこで,通常CF3化反応は,フッ素アニオン種や金属アルコキシドなどの塩基性条件で進行することが知られているが,ルイス酸によるCF3化反応の例は全くない。そこで,様々なルイス酸のスクリーニングをした結果,Cu(OAc)2とdppeの触媒系で,非極性溶媒中においてもCF3化が進行することを見出した。これは,初のルイス酸触媒となるトリフルオロメチル化であり,不斉CF3化反応への適用が期待される。さらにMe3CF2Xを用いるとジフルオロメチル化が効率的に進行した。
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