研究概要 |
光学活性らせん構造を有する高分子を不斉源としてキラル触媒に利用した例は極めて少ない。我々は、右巻き・左巻きの作りわけ可能な剛直らせん構造をとるポリキノキサリンに着目し、配位性のPh2P基を有するらせん状キノキサリンコポリマーを配位子として用いることで、Pd触媒によるスチレンの不斉ヒドロシリル化が、高いエナンチオ選択性で進行することを見出したので報告する。 光学活性Pd錯体を不斉開始剤とする1,2-ジイソシアノベンゼンの不斉リビングブロック重合により、配位性のPh2P基を有するモノマーユニットが、平均10ユニットの非配位性モノマーユニットに挟まれた構造の光学活性コポリマー(n〓m〓10)を合成した。CDスペクトルから、このコポリマーは90%以上右巻きらせん過剰率を有していると見積もられた。このコポリマーと[PdC1(π-allyl)]2をP/Pd比2:1で混合して調製した高分子錯体を触媒として、スチレンのヒドロシリル化を行った。トリクロロシランによるスチレンのヒドロシリル化は、0.1mol%量のPd触媒の存在下、0℃において高収率で進行した。比較のために、配位性部位を有さないホモポリマー(1〓20)をかわりに用いたところ、ヒドロシリル化は全く進行しなかったことから、先のコポリマーにおけるPh2P部位でPdに配位した錯体が触媒作用を有していることが明らかとなった。このコポリマーを配位子とするヒドロシリル化で得られた生成物は85%ee(R:S=7:93)を有しており、不斉ヒドロシリル化が高エナンチオ選択的に進行することが分かった。種々のスチレン類の不斉ヒドロシリル化を行ったところ,最高で87%eeのエナンチオ選択性が得られた。また,同様の芳香族ポリマーを精密合成する際に有用な,繰り返しクロスカップリング法に基づく新規オリゴマー合成法を開発した。
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