本研究では、自動合成装置化を指向し、フルオラス糖鎖合成を二層系で行い、効率化を図ることを目的にしている。本年度は、フルオラス糖鎖合成法の基盤技術に関する研究を推進すると共に、界面でのグリコシル化反応の制御という新たな指導原理を開発すべく、昨年度に引き続き二層系グリコシル化反応を検討した。 昨年度、フルオラス糖供与体として、新規に設計合成したN-フェニルペンタデカフルオロオクタン酸イミデートを用いる二層系グリコシル化反応を詳細に検討したところ、均一系では高収率で対応するグリコシドを与えるにも拘わらず、二層系では予期に反し、ほとんど反応が進行しなかった。種々検討を行ったところ、糖供与体の脱離基をフルオラス化しても、活性化された真の活性体であるオキソカルベニウムイオンが有機層に留まるため、フルオラス糖受容体と反応できないことが原因の一つと考えられた。 そこで、フルオラス化したオキソカルベニウムイオンを調製できるよう供与体の保護基としてHfb基を用いた。6-0-Hfb体のトリクロルアセトイミデートを糖供与体に用い、ベンジルアルコールとの反応を行ったところ、二層系(ジクロロメタン-フロリナート FC-72)でも86%の収率で対応するグリコシドを与えることを見出した。今後は、この二層系反応を詳細に検討し、自動合成装置へ向けた新規グリコシル化反応の確立を行っていく。 以上のように、糖鎖自動合成へ繋がる新たな二層系グリコシル化反応を明らかにできた。これらの結果を基に、本研究は次のステージへ遅滞なく進むことができる。また、この研究は、非水系の液一液界面を用いる有機合成化学という広範な新規分野の開拓でもあり、その大きな波及効果も期待される。従って、本研究終了後も引き続き重点的に研究展開していく予定である。
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