研究概要 |
近年,遺伝子・薬物輸送システム,化学反応のミクロ反応場などへの活用から水中における両親媒性高分子の挙動が大変注目されている。両親媒性高分子の示す自己集合挙動は外部条件に大きく依存し,すなわち,温度,イオン強度などの変化は,選択溶媒条件を作り出すことになる。その結果,ナノスケールの分子集合体(ナノ秩序構造)を形成する。またナノ秩序構造を単位として弱い相互作用が長距離に及ぶ場合には,より高次な秩序構造がメソスケールにわたって階層的に形成される場合もある。これらの分子は生体組織を構成するパーツであり,生体機能が活性化する機能場として重要な役割を果している。分子集合を支える弱い相互作用は,我々の生活環境である室温と同じ程度の熱エネルギーという特徴がある。そのため秩序構造は,熱揺らぎのなかで,特徴的な時間で生成消滅する非常に微妙なバランスの上に成り立っている。よって複雑な時間階層性を同時に持つことになる。生体は,この微妙なバランスの上で秩序構造を作り換えることで適応や進化を可能としてきたと考えられる。ソフトマターの可能性は,まさにこの複雑な時空階層にあり,その理解と制御が重要である。ヒドロゲルは通常固体成分が水中に分散した粘弾性物質であり,天然由来,合成を問わず固体成分はネットワーク構造を有する。疎水化ポリエチレングリコール(疎水化PEG)は,その構造がシンプルであることから水溶性高分子の自己集合による超構造形成,その外場応答を検討する上で取り扱いが容易である。そこで,我々は疎水化PEGを用いて,水中での構造形成,その力学応答の検討をレオロジー/中性子小角散乱(Rheology-SANS)同時測定により検討を行った。動的弾性率(G',G")の経時変化および,それに伴うSANS2次元散乱パターンの変化からbccミクロ構造はshear amplitudeに従って異なったtextureに配向しすることが明らかとなった。さらにshear-strain mapから,特定のshear rateおよびamplitudeを作用させることで,そのtextureを制御することが可能であること,さらにゲルに経験する力学的履歴により取りうるミクロ構造を決定する記憶効果があることが明らかとなった。
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