研究課題
ジャイアントベシクルを用いて情報を持つ人工細胞モデルを構築する上で、ジャイアントベシクルの内水相でのポリメラーゼチェインリアクション(PCR)による鋳型DNAの複製反応条件を確立することは不可欠である。粒径サブミクロンのスモールベシクルでPCRを行なった研空例はあるものの、ジャイアントベシクルについての報告例は皆無であった。平成18年度の繰越分では、研究実績のある博士研究員を雇用し、修士課程の院生と共に、たんぱく質(GFP)をコードする配列を含む1229ベースペアからなる鋳型DNAを用い、以下の改良を行いつつ、反応条件の最適化に焦点をあて集中的な研究を遂行した。1,非特異的増幅を抑制するため、ホットスタートタイプのPCR酵素を用いたこと。2.Mg^2+はベシクルの生成を阻害するが、 Mg^2+を含むPCR溶液でもなるべく大きなGVができるよう、PEG付き脂質(DSPE-PEG5000)を1%添加したこと。3.温度昇降条件を、バルク実験で最適化したこと。4.EDTA添加で外水相のPCRを停止することを検討してきたが、DNA分解酵素を用いることに変更した結果、 ほとんど希釈せずPCRが仕込めるようになり、酵素活生が高いままPCRできるようになったこと。5.上記4の酵素分解を取り入れたことにより、PAGE分析の前処理で必要であった濃縮操作をしなくてもよくなった。また、脱脂質・脱塩処理を導入したので、PAGEプロファイルが鮮明になったこと。以上の改良の結果、ついにジャイアントベシクルの内水相での高効率なPCR条件を確立し、ジャイアントベシクルの内水相でDNA2本鎖が増殖したことを蛍光プローブ(SYBR Gren I)の発色で確認すると共に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により、1229ベースペアの位置に明確なバンドを検出した。これによりジャイアントベシクル内でPCRが進行したことの実験的証拠が得られた。本成果は平成20年度日本化学会春季年会(3C6-25)で、口頭発表を行なった。現在速報を準備中である。
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