研究概要 |
分子内に大きな強磁性相互作用をもつ安定ラジカル置換ラジカルイオン種は磁性体の構成成分として魅力的な化合物であるが,室温で安定な化学種はこれまで知られていなかった.申請者らは最近,安定ラジカル置換ジヒドロフェナジン誘導体が,室温下安定で分子内に大きな強磁性相互作用を示すことを明らかにしている.磁性体構築のためには誘導体の合成が必須であり,本研究では,ジヒドロフェナジン誘導体や他のπ骨格を用いて,室温で安定な強磁性相互作用を示す安定ラジカル置換ラジカルイオン種の開発を目的として検討を行った.開発には次の分子設計指針を用いた;1)酸化あるいは還元が容易でラジカルイオン種が安定であること,2)安定ラジカルを導入する炭素原子上に大きなスピン密度をもつこと,3)ラジカルイオン種の結晶性が良好であること.2)の条件により強磁性相互作用が達成され,3)の条件は磁性体構築の際に重要である,安定ラジカルカチオン種として,p-あるいはm-フェニレン架橋ビスジヒドロフェナジン,ベンゾチアジノフェノキサジン,ベンゾオキサジノフェノキサジン,ヘテロ元素架橋トリフェニルアミン等の構造を検討し,安定ラジカルアニオン種としてチエノキノイド構造に着目し,それらの骨格合成の検討と基本的性質の解明を行った.ラジカルカチオン種については検討した全ての場合ラジカルカチオン種を単離することができ,ラジカルアニオン種についてはジシアノメチレン末端型チエノキノイドラジカルアニオンを単離する事ができた.検討した化合物は,多くの場合,1),2)の条件を満足したが,3)の条件を満足することが困難であった.酸素架橋型トリフェニルアミンラジカルカチオン種は3)の条件を満足する事が分かった.実際に酸素架橋型トリフェニルアミン誘導体に安定ラジカルを導入する事ができ,そのPF_6,GaCl_4,FeCl_4塩を安定な結晶として単離する事ができた.それらは大きな強磁性的相互作用を示した.ジヒドロフェナジン誘導体については,安定ラジカルがフェルダジルの場合結晶性に優れ,GaCl_4,FeCl_4の塩を結晶として単離することができた.
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