研究概要 |
有機分子からなる強磁性体は,14年前に日本で発見された.これは,不対電子を一つ持つ安定ラジカル(スピン量子数S=1/2)の結晶で,すべてのスピンが同じ方向に揃うものであった.磁性体のもう一つのタイプとしてフェリ磁性体である.これは,大きさの異なる2種類のスピン(例えばS=1とS=1/2)が互いに逆向きにそろい,その差し引き分のスピンによって巨視的な磁化が現れるものである.遷移金属(磁性金属元素)を含まない有機物質ではまだ発見されておらず,長年のマテリアルチャレンジとされてきた.本研究では,有機酸・有機塩基にスピン量子数Sの異なる安定ラジカルを導入して,カチオン分子とアニオン分子の間の静電引力を利用したヘテロスピン分子集合系(酸-塩基系二成分純有機フェリ磁性体)を構築するため,そのbuilding blockとしての安定な荷電オリゴラジカルを合成することを目標とした.S=1のスピンを担うビラジカルとして,ピリジンの2,6位または3,5位にニトロキシド系ラジカルを導入した中性前駆体ラジカルおよびそのカチオン種を合成した(一部,前年度からの継続を含む).さらに,分子内のスピン-スピン交換相互作用,基底スピン多重度を明らかにするために,ビラジカルをPVC(ポリ塩化ビニル)フィルム中に分散させた固相希釈試料を調製し,それらの磁化率を測定した(液体ヘリウムを用いた低温領域.SQUID磁束計による.).磁化率の解析から,調べたピリジン誘導体はすべて基底三重項であり,分子内の強磁性的交換相互作用はイオン電荷の影響をほとんど受けず,純有機フェリ磁性体のbnilding blockになり得ることがわかった.さらに,これらのビラジカル類を,パイ共役を断ち切る形でモノラジカル類と連結してトリラジカル(単成分有機フェリ磁性モデル系トリラジカル)を合成し,それらの磁性と構造を明らかにした. (792字)
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