初年度においてはポリカーボネート(PC)を標準物質として、半導体の熱励起を利用した完全分解の反応素過程を検討した。その結果、高温状態で大量に発生する正孔はまず被分解物であるPCから結合電子を引き抜き、ラジカルを発生させる。次に、このラジカルがポリマーの主鎖に沿って伝播し、ラジカル開裂により2万以上もある高分子はフラグメント化(低分子化)されて十分な酸素下で完全燃焼することが明らかになった。また、、PCをはじめとする熱可塑性のポリマーばかりでなく、融点を持たない3次元ポリマーである熱硬化型ポリマーの分解も達成することができた。次に、取り組んだ課題はディーゼル排気ガスに含まれるトルエン、ベンゼン、黒色粒状物質(PM)の完全浄化である。この実験に先立ち、酸化チタンの結晶相、結晶性、比表面等をラマンスペクトル、ESR、熱分析等の手段を用いて詳細に検討し、我々に熱励起分解システムに最も適した酸化チタンを選出した(ST-01:石原産業)。比表面積が大きく、純度ならびに結晶性が高い酸化チタンが最適であり、結晶相そのものは分解能力に直接関係しないことが明らかになった。ST-01を流動床タイプの圧力反応器で分解すると、トルエンならびにベンゼンは350-500℃で水と炭酸ガスに完全分解されることが分かった。更に、PMに関しても接触頻度を大きく、接触時間を長くとることにより完全分解を達成した。以上の基礎検討を踏まえ、システムの実用化を念頭に入れた酸化チタン粉末の支持体への担持化の検討に入った。最適化された酸化チタンの特性を損なわずに金属支持体に担持する電気泳動電着法と直接金属を湿潤水素等で酸化する方法を検討した。双方とも良好な結果が得られている。研究期間の最後には十分な酸素下で行う完全分解から発想を転換し、酸素欠乏状態でメタノールやメタンを部分分解して水素を生成する課題にも取り組み、まだ解決すべき問題はあるものの高効率で水素生成が可能であることを示すことが出来た。
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