研究概要 |
RNAi(RNA干渉)は、二本鎖RNAが誘導する配列特異的な遺伝子サイレンシングである。この現象は、はじめに線虫で発見されたが、その後、植物やショウジョウバエ、哺乳動物でも起こることが明らかになってきた。このRNAiにおいて21-25塩基の短いRNA (siRNA)は、細胞質で実行蛋白質(RISC)と複合体を形成して配列特異的にmRNAを切断する。一方で植物では、遺伝子プロモーターに存在しているCpG配列を標的とした二本鎖RNAは、DNAメチル化を誘導してその遺伝子の発現を転写レベルにおいて抑制することが知られていた。しかし、哺乳動物細胞では、そのような機構が存在するかは不明であった。最近我々とアメリカのグループは、ヒト細胞においてCpG配列を標的とした二本鎖RNAがDNAメチル化を誘導することを見出した(Kawasaki and Taira, Nature, 2004 ; Morris et al., Science, 2004)。この発見は、生物学的に興味深いだけでなく人為的に特定の遺伝子発現を転写レベルで制御できる可能性を示唆すると考えられる。しかしながら哺乳動物細胞における二本鎖RNAによるDNAメチル化現象は、その機能や役割について不明な点が多い。本研究ではこの二本鎖RNAによるメチル化現象の機能解明を行うことを目的とした。 はじめに特定遺伝子のプロモーター領域を標的とした二本鎖RNA(21〜27塩基)を設計して合成二本鎖RNAを作製した。次に二本鎖RNAによるDNAメチレーション誘導について、二本鎖RNAの標的とする配列の違いによるメチル化の効率をメチレーション特異的PCRによって検討した。その結果、二本鎖RNA(21〜27塩基)は、効果的にDNAメチレーションを誘導することがわかった。特にCpG配列を多く含む配列を標的とした二本鎖RNAがDNAメチレーション効果的に誘導した。またRNAiはヘテロクロマチンサイレンシングに関わることが最近報告されている。ヘテロクロマチンサイレンシングはヒストンH3のリシンのメチル化が観察されることが知られている。そこでこれらの二本鎖RNAがヒストンH3メチル化を誘導するかについてCHIP法を用いて検討した。その結果、二本鎖RNAを標的とした領域にヒストンH3メチル化が誘導されることがわかった。これらのことから、二本鎖RNAはDNAとヒストンの両方をメチル化に関わることが示唆された。
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