本年度は超好熱始原菌Thermococcus kodakaraensis KOD1株において、様々な外的刺激に対して遺伝子発現量が変化する遺伝子を同定した。最も興味深い応答は本菌のmethionine sulfoxide reductase遺伝子で見られた。本酵素はmethionineが酸化された際に生じるmethionine sulfoxideを還元修復する抗酸化酵素であるが、酸化ストレス(過酸化水素添加)に対しては応答せず、低温条件(60℃培養)でのみ発現誘導が見られた。このような温度に対する応答を理解するため、本酵素の生化学的解析を行った。その結果、methionine sulfoxide reductaseは、耐熱性が比較的低く、活性の至適温度も本菌の至適生育温度(85℃)と比べ驚くべき低いものであった(30℃)。本酵素は超好熱菌が低温環境にさらされる際に上昇する溶存酸素濃度に対処するための防御機構の一員である可能性が示唆され、その発現調節機構は極めて興味深い。また耐熱性の低いタンパク質を超好熱菌細胞内で人為的に発現した際に、本菌内の2種のHSP60タンパク質のうちの1種(CpkB)が誘導発現することが判明した。もう一方のCpkAは発現誘導されず、機能分担を行っている可能性が示唆された。他のHSP系の因子がどのような応答を示すかどうかを現在検討している。さらに転写調節因子に関しては4種の遺伝子破壊株が単離でき、その形質評価を行っている。
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