研究概要 |
本研究は、核酸の分子間相互作用データベースを作成し、細胞内やセンサー表面で分子センシングができる機能性核酸の開発を目的としている。これまでは、細胞やセンサーで生じる非水溶液環境が再現可能な、PEGを用いた分子クラウディング実験系を用いて研究を進めてきた。本年度は、核酸の分子間相互作用を系統的に測定することで、核酸に対する種々のカチオンの結合エネルギー(Chem.Commun.,2008,700)、並びにカチオンの結合と水の結合を定量化することができた(Bull.Ckem.Soc.Jpn.,2007,80,1987)。さらに、DNA構造形成と解離に対する速度論的な影響についても明らかにし(Chem.Commun.,2007,2750)、非水溶液環境での核酸の分子間相互作用のデータベース化が大きく進んだ。また、金属イオンに応答して構造変化する人工DNAを開発することにも成功した(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,5919)。この人工DNAは分子クラウディング中で活用できる。一方で、分子クラウディング効果が溶液のpHや金属イオン濃度にどのような影響を与えるかを調べるために、リボザイムが触媒するRNA加水分解速度を測定した。その結果、PEGは溶液のpHと金属イオンの活量にはほとんど影響を与えないことも見出した。さらに、様々な分子形状や電荷のクラウディング分子を用いて核酸の構造安定性に対する影響を調べ、そのPCRへの利用を試みたところ、GC塩基に富んだDNA配列に対して高効率なPCRを実現する分子クラウディング剤が見出され(Tetrahedron,2008,64,168)、非水溶液環境をテクノロジーに利用するという成果も得られた。
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