本研究テーマは、我々のグループが開発した「固液界面接触分解法」により、様々な高機能ナノ材料の高速合成を目指すものである。本法は、高温に熱せられた触媒と、原料となる有機液体との接触反応による炭素析出を材料合成の基本とする。反応場である固液界面は、化学ポテンシャルの急峻な変化による非平衡場であり、さまざまな構造・機能を有する炭素材料合成実現の可能性を秘めている。本材料合成技術において、任意の構造制御を可能とするため、まず、得られる炭素材料とさまざまな合成条件、すなわち接触反応を左右する触媒金属の種類及び状態、接触反応温度、有機液体の種類等との関係を明らかにし、生成物の合成条件依存性を把握することは重要である。昨年度までに、鉄系触媒を用い、有機液体にメタノールを用いてさまざまな条件下で得られた炭素材料の構造及び形態について電子顕微鏡を用いて詳細に観察した結果、形態・構造を制御してカーボンナノチューブを合成するために重要なパラメータが明らかになった。今年度は、カーボンナノチューブの結晶性を制御するため、合成過程における反応温度(約600度〜1000度)とその保持時間を変えた実験を行った。その結果、合成過程において600度と900度以上を同時に存在させることにより、結晶性に優れたカーボンナノチューブを合成することができることがわかった。さらに、触媒を酸化処理することにより、その物理化学状態を制御してカーボンナノチューブの生成に及ぼす影響を調べたところ、触媒が多様な酸化状態を取る場合に、カーボンナノチューブの発生密度が高くなり、結果として基板への垂直配向性に優れたカーボンナノチューブを合成可能であることがわかった。このように、任意の構造を有するカーボンナノチューブを制御性良く合成可能な技術の確立に一定の目途をつけることができた。今後は、物性測定を進めて、構造と物性の関係を明らかにしていく。
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