イオン伝導性高分子とリチウム(Li)塩からなる高分子固体電解質フィルムに対し、メソ多孔体シリカ(MPS)の充填が複合系の構造、イオン伝導度(σ)及び基礎物性に及ぼす影響を検討した。まず、結晶性のポリエチレンオキシド(PEO)にLi塩とMPSを複合化した複合フィルムを作製した。また、MPSの細孔中にイオン液体を挿入させたもの(IL-MPS)を作製し、MPSのイオン液体による修飾の効果も検討した。 MPS充填系では、フィラー充填量10wt.%でσが最大を示し、それ以上では充填量が増加するにつれてσが減少した。MPS充填によるσの増加は、高分子-フィラー界面で生じるルイス酸-塩基相互作用によるイオン伝導パス形成効果によるものと考えられる。一方、充填量10wt.%以上では、導電性をもたないMPSが複合体内でネットワークを形成することによりイオン伝導経路が遮断され、この効果がイオン伝導パスを形成する効果よりも支配的になり、σが減少したと考えられる。これに対し、IL-MPS充填系では充填量の増加とともにσは増加した。MPS孔内に存在するIL相により、フィラー自身がイオン伝導性を有すると考えられる。 上記複合体の力学物性に及ぼすフィラー充填の影響を検討した。MPS充填系、IL-MPS充填系ともに、フィラー未充填の試料に比べ、充填量の増加にともない貯蔵弾性率(E')は増加した。一方、ILとMPSを単純混合した系では、フィラー未充填の試料と比べてE'は減少した。これは、複合体とILが均一に混合し、可塑化効果が生じたためと考えられる。これらの結果より、IL-MPSを充填した場合、高分子マトリクス中に分散したMPSの孔内からILが漏出することなくMPS孔内に局在化する。そして、局所的に存在するIL相が高速イオン伝導チャンネルとして効果的に働き、高い弾性率を維持したままイオン伝導度が増加したと考えられる。
|