熱力学的非平衡状態で形成される秩序構造は散逸構造と呼ばれる。これまでの研究によると、ポリスチレン(PS)/ポリブタジエン(PB)/フタル酸ジオクチル(DOP)溶液の重力方向に対して上部低温、下部高温の温度勾配を付与すると対流と相分離がカップリングした散逸構造が得られることが分かっている。この系における対流の発生要因は、Soret効果によりポリスチレンが低温側の試料上部に濃縮されることにある。Soret効果とは温度勾配により誘発される濃度勾配である。PS/PB/DOP溶液においてはPSの密度が最も高い。低温側の上部にPSが濃縮されると、溶液の上部と下部において密度の逆転が生じ、PSは高温側の下部に流れていく。これが駆動力となって対流が発生する。垂直方向に温度勾配を付与する場合には重力の影響を必ず被り、純粋に温度勾配の影響(Soret効果や相分離の自己組織化に与える影響)を調べることができない。そこで本研究では新しい試みとして、PS/PB/DOP溶液に対し、垂直ではなく水平方向に温度勾配を付与し、どのような現象が観察されるのかということに注目し実験を行った。この目的のため、位相差顕微鏡の下で横方向に温度勾配を付与するセルの開発を行なった。当初の予測に反して、市販品では全く目的の実験を行なうことができないことがわかったので、セルを自前で開発することにした。しかしながら、その開発が困難を極め時間がかかった。最終的には、厚み1mm、幅1mmの液体試料に対して横方向の直線的温度勾配を30℃まで高精度で付・与するセルを開発することに成功した。このことは、液晶を用いた実験により確認した。すなわち、液晶の転移温度を挟んでそれより高温側と低温側の温度勾配を付与することによって、液晶/等方相の境界線が明確なかつ直線的に観察することができた。このセルを用いて、水平方向の温度勾配付与によるPS/DOP溶液、PB/DOP溶液ならびにPS/リン酸トリクレジル(TCP)溶液のSoret効果の定量分析を行なった。さらには、水平方向の温度勾配付与によるPS/PB/DOP溶液の階層性相分離構造の創出にも取り組んだ。
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