研究概要 |
これまでの測定は専ら室温下で実施されたのに対して,本年度では低温下(77K)の測定をホール抵抗(最大磁場5T)について行った.測定試料はYHx(1.73<x<2.04)である.HIY比の違いによりホール係数(RH)とゼロ磁揚比抵抗(ρ)が異なる値を示すが,共にH/Y≒1.95で最小値を示すことが見出された.これは,HIY比によって変化したpの値にひきずられてRH値1が変わったことを意味するが,同様な特徴が室温下でも観測されていることから,これら輸送係数に対してはキャリヤーフォノン散乱よりもむしろキャリヤー不純物散乱の寄与が大きいことが分かる。後者の散乱機構には結晶異方性が殆ど効かないので,RHは専らフェルミ面形状に拠ると考えられる.これまでYHxのRHが極めてゼロに近い値をもつことを,ドルーデ的な現象論の立場から,電子濃度(移動度)≒正孔濃度(移動度)として解析してきたが,さらにフェルミ面形状まで遡って検討する必要があることを今回の結果は示唆している.フェルミ面形状はバンド構造から得られるが,これまでに報告されているYH2のバンド計算(2例)の信頼性を調べるために,本年度では室温反射スペクトルを通じてYH。の誘電関数を0.05〜6.0eVの範囲で評価した.主に3つのバンドが深紫外,可視,近赤外領域に観測された.深紫外(可視域)で観測されたバンドは,フェルミ面近傍を終状態(始状態)とする直接遷移(間接遷移)に帰属できる可能性が高いことなどがバンド計算との比較によって分かった.それらのエネルギー位置や強度はTサイトの水素占有濃度に強く依存する.このことはTサイトの水素占有がYH2のバンド構造を決定付けているとする理論計算と整合する.
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