研究概要 |
近年,シリコンテクノロジではポストCMOSデバイスが真剣に議論される中,光電子融合の担い手としてシリコン,フォトニクスの台頭に急速に期待が集まっている。しかし,真の意味でシリコンフォトニクスが完成するか否かは,あらゆる光機能をシリコンフォーマットで実現できるかどうかにかかっている。導波,分波,合波などをはじめとして受光,変調,周波数シフトほかの基本的なデバイス機能がほぼシリコンベースの条件下でそろってきている現在,光発生と光増幅が最後の課題であり,現在,シリコン系材料か異種材料とのハイブリッド化を選ぶかの岐路に立たされている。シリコン製のラマンレーザーでは室温連続発振こそ報告されているが,強力な外部ポンプ光を必要とする以上,真の意味で自立したシリコン製光源とよぶのには問題がある。 このような問題意識からスタートした本研究の目的は,従来は実現不能とされてきたシリコン系材料によるバンド端輻射再結合にもとつくシリコン光増幅器およびシリコンレーザのプロトタイプ具現化を模索することである。昨年までにシリコンをエネルギー障壁とするガリウムアンチモン(GaSb)量子ドットにおける光増幅作用につき,極低温ではあるものの,光励起,電流注入モードでのシングルパス近赤外光増幅とレーザ発振の前駆現象である増幅された自然放出光発生の観測に成功してきた。しかしながら元来,反転分布を形成する界面電子系の束縛が弱いことから材料系の変更や原理そのものの変更を余儀なくされていた。 一方,イオンダメージを受けたシリコンや酸化層近傍の欠陥準位を利用したバンド間遷移光利得が報告されている。そこで最終年度では,結晶のバンド状態に影響を受けない結晶欠陥に付随した電子状態を利用することでシリコンをベースとした光利得,レージングの可能性を探った。 歪GaSb-Si,SiGe,SOI基板をスローアニール処理することで900meV近辺に蛍光ダブレットを形成する(311)欠陥を導入した。低エネルギー側のピークは温度とともに発現し,40Kで極大を迎える一方,その発光強度は光励起増加とともに非線形な増大を示した。バット結合の2チップ配置のポンプ,プローブ法によりパルス光励起の単一パス利得を計測したところ,3dB程度のon-off利得が極低温で観測された。プローブ光強度依存性,利得飽和はGaSb-Si量子ドットとは異なる特性を示した。(311)起因の欠陥と相関した発光の利得の観測としてははじめての結果が示された。
|