本研究の目的は、トンネル磁気抵抗素子(TMR)や巨大磁気抵抗素子(GMR)の磁気抵抗に大きな影響があると考えられている磁性層と非磁性層の界面の構造やラフネスを方位角走査反射高速電子回折(φ-RHEED)を使用して調べ、磁気抵抗に対する界面の役割を明らかにすることである。はじめに、既存の超高真空槽に作成したエネルギーフィルタ、既存の電子銃、5軸試料マニピュレータを装着し、φ-RHEEDの測定が行うための装置を組み立てた。さらに、磁性ナノ人工格子を作成する基板の清浄化を行うための3KVイオン銃(購入備品)を取り付け、人工格子の組成をオージェ電子分光により評価するために静電半球型電子分光器(購入備品)をφ-RHEED超高真空槽に取り付けた。これにより、磁性ナノ人工格子の成長を行い、その場で表面・界面の構造を解析できるφ-RHEED測定装置が完成した。 この装置を用いてはじめにSi単結晶表面にFeを蒸着し、その界面構造の研究を行った。Si(111)表面に蒸着されたFeは、Siと反応してシリサイドを形成するため強磁性を示さなくなるが、その界面の研究はSi上の磁気抵抗素子の作成にとって重要である。様々な条件で鉄シリサイドの成長を行った結果、Feが界面で反応するとβ鉄シリサイドが生じ、Si表面上で反応するとα鉄シリサイドが成長することが本研究で明らかになった。次にFe/MgO/Fe人工格子によるTMR素子をSi表面に作成するために、Si表面にエピタキシャルMgO薄膜の成長を行った。その結果、蒸着温度や蒸着時の酸素分圧、そして蒸着量に依存して、MgOが複数の異なった方位でエピタキシャル成長するという興味深い結果を得た。そして、方位のそろったMgO結晶を得るための指針を得た。残念ながら、最終目的である磁性層と非磁性層の界面研究は未達成であるが、本研究によりそれが十分可能であることが示された。まもなくそれらの研究を行う予定である。
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