研究概要 |
本研究の目的は,酸化物表面でのオルトーパラ転換における磁場効果と磁気相転移効果の機構解明を行うことである。そのために超高真空中で準備された単結晶試料表面での水素のオルトーパラ転換における磁場効果を調べる装置を構築し,磁性体表面におけるオルトパラ転換速度の精密測定を遂行するとともに、転換速度の外部磁場依存性と磁気相転移効果を明らかにする。転換速度測定は、これまで開発してきた光刺激脱離-共鳴イオン化法を用いて行う。また磁場下での転換速度測定を実現するために、新たにオルト・パラ弁別測定のためのレーザー誘起蛍光法の開発を行う。 本年度は、反強磁性体であるCr_2O_3(T_N=308K)単結晶表面の作製と、この表面における水素のオルト・パラ転換時間の測定に成功した。試料を7Kに冷却して水素分子を物理吸着させ、光刺激脱離を併用して表面におけるオルト/パラ比の時間変化を測定した。オルト/パラ比の減衰曲線から転換時間を求めたところ、水素分子の場合およそ200s、重水素分子の場合は500sであることがわかった。続いて、磁場中でのオルトーパラ転換速度測定法として、E,F状態を経由した1光子発光過程の測定に成功した。検出器としてSi-APDを用い、可視-紫外フィルターを介して赤外光のみ測定する検出系を構築した。励起光の波長を掃引し、そのときの発光強度を測定したところ、共鳴イオン化スペクトルと類似のスペクトルが観測された。観測された4つのピークは、回転量子数が0-3の量子状態に相当すると考えられる。
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