研究概要 |
本年度は(1)量子井戸中光励起キャリアによるマイクロストリップ(MSL)上THz伝搬変化,(2)THz-量子カスケードレーザー性能の向上,(3)量子井戸のスペクトル変化を利用した空間軸でのTHzパルス検出,および(3)単一導体線路におけるTHz波伝搬,等の研究を進めた.以下に概要を記す. (1)光励起キャリアによるTHz波伝搬の変化を明確に捕らえた.THz波スペクトルを解析し,量子井戸キャリアのTHz電界応答が,水などの極性分子集団が示すDebye緩和型となっていることを明らかにした.その緩和時間がサブピコ秒であることも明らかになった,この結果は量子閉じ込めキャリアリTHz応答に関する従来の報告を一部覆すものである.またモデルとして本研究開始当初の予想が正しいことや,緩和時間が予想よりも長く,光励起キャリア密度が十分に高くないことにより,THzパルスは減衰および分散を伴う変化を受けることが明らかになつた. (2)(1)従来のシングルプラズモン型導波路より格段に閉じ込め係数が大きくなるダブルメタル型導波路を用いたTHz-QCLを試作し発振を確認した.この結果,パルスデューティー比を2桁以上(320倍)改善し,2.56%を達成した.(2)エレクトロルミネッセンスを確認しているGaSb/AlGaSb系THz-QCLをSI-GaAs基板上に形成する導波路を考案した. (3)MSL中に厚さ1μm程度の量子井戸を埋め込んでも,伝搬に与える影響が十分に小さいこと,また量子井戸中に発生する電界強度がTHzパルス観測に十分な値をもつことなどを,数値解析により明らかにした. (4)金属単線におけるTHz波伝搬を解析的に求めるプログラムを開発し,伝搬特性を解析した.運動量緩和時間で決まる周波数より低周波数側では,導電率の実部が伝搬定数を決定し,高周波数側では導電率虚部の伝搬定数への寄与が大きいことが明らかになった.
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