研究概要 |
き裂治癒能力とは材料自身がき裂を感知・修復するという機能であり,脆性材料であるセラミックスに適用する利点は極めて大きい.なぜなら,セラミックスは破壊靭性が極めて低く,機械加工時に発生するき裂が信頼性低下の最大の要因となるからである.また,加工中に発生するき裂を全て治癒できたならば,加工能率および加エコストの抜本的な改善が可能となる.本研究では,申請者が開発した,優れたき裂治癒能力を有する窒ケイ素/炭化ケイ素,アルミナ/炭化ケイ素粒子およびアルミナ/炭化ケイ素ウィスカー複合材を供試材として選択した.供試材に様々な一回切込み深さ(機械加工条件)で粗研削を行い,構造用部材を模擬した様々な形状の機械加工材を作製した.その結果,以下の点が明らかとなった. 1アルミナ及び窒化ケイ素複合材を粗研削すると,粗大なき裂が無数に発生し,その曲げ強度はJIS規格に準拠し精密研磨を施した平滑材に比べ50〜80%程度の値にまで低下することが分かった.これら試料の曲げ強度は1400℃で10時間き裂治癒を施すことにより平滑材と同等以上にまで回復することが分かった. 2アルミナ/炭化ケイ素粒子およびウィスカー複合材を粗研削後,1400℃10時間き裂治癒処理を施した試料の曲げ強度は室温〜1300℃まで表面が平滑な試料と同等の値であった.さらに,900℃及び1100℃における繰り返し及び静疲労強度も表面が平滑な試料と同等の値であった. 3窒化ケイ素/炭化ケイ素粒子複合材を粗研削後,1400℃で10時間き裂治癒処理を施した試料の曲げ強度は室温〜1400℃まで約700MPaの高い値を示した.さらに,その繰り返し疲労強度は800℃,1000℃,1200℃及び1300℃においてそれぞれ700MPa,650MPa,600MPa及び550MPaの非常に高い値を示した. 以上の結果より,窒ケイ素/炭化ケイ素,アルミナ/炭化ケイ素粒子およびアルミナ/炭化ケイ素ウィスカー複合材において,き裂治癒は非常に厳しい条件の機械加工により発生したき裂に対しても有効であることが分かった.さらにき裂治癒した試料は実環境である高温疲労環境においても高い信頼性を有することが明らかとなった,したがって,セラミックスの機械加工工程にき裂治癒処理を導入することにより,セラミックス機械加工材の信頼性を高温まで確保できることが明らかとなった.本研究の成果はセラミックスの信頼性確保とともに加工能率・加エコストの抜本的な改善に大きく寄与するものと期待できる.
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