研究概要 |
平成18年度は,多層膜の下層となるSi-O-N膜の酸素バリア性を安定させるために,さらなる成膜条件の見直しを行った.また,FT-IRを用いて薄膜の構造と酸素バリア性の関係について検討を行った.検討に際しては,傾斜対向式dcマグネトロンスパッタリング装置を用いてSi-O-N薄膜をPET基板上にコーティングした.その際,膜厚は昨年度に最も良い酸素バリア性を示した約30nmとなるよう成膜時間を調整した.酸素透過度の測定にはMocon社製OX-TRANを用いた. 検討の結果,Si-O-Nコーティング材の試験片ごとの酸素バリア性のばらつきは,成膜直前の真空チヤンバ内壁の状態に強い影響を受けることがわかった.成膜作業ごとにチャンバ内壁の研磨を行うことで,酸素バリア性のばらつきを昨年度の3cc/m^2・day・atm程度から,0.5cc/m^2・day・atm以内に改善することができた.また,窒素ガス流量比0.04で行うことで,0.88cc/m^2・day・atmの昨年を上回る酸素バリア性を得ることができた. 次にFT-IRを用いてSi-O-N膜の構造を調べ,酸素バリア性と膜中の原子の結合状態の関係について検討を行った結果,窒素流量比の増加に伴ってSi-Oの伸展モードに対応するバンドのピーク位置が低周波数側へシフトすることがわかった.これは作成した薄膜がSiO_2およびSi_3N_4からなる二相混合物ではなく,四面体型結合がSiO_xN_<4-x>(x=0,1,2,3,4)で表されるSi-O-Nネットワークタイプである事を示している.また薄膜中の窒素分の増加とともにSi-Oバンドのピーク位置が低周波数側へシフトするとの報告があり,本研究で作成したSi-O-N薄膜は成膜時の窒素流量比によって膜中の窒素量を制御可能であり,窒素量の最適化を図ることで,酸素バリア性を向上できることが明らかとなった.
|