研究概要 |
摩擦面における添加剤の反応を積極的に利用して潤滑効果を高めることを目的とした。具体的には、軸受鋼を用いて往復動摩擦試験を行った。 耐摩耗剤であるリン系の添加剤と摩擦調整剤である硫黄系の添加剤が共存すると摩擦と摩耗の両方を低減する相乗効果を示すことを見いだした.このメカニズムを明らかにするために軸受鋼を試験片とするボールオン平面タイプの摩擦試験を行った.摩擦面に生成した境界膜をX線光電子分光法(XPS)と飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)でその化学構造を調べてトライボロジー特性の関係を比較した. リン系添加剤単独では良好な耐摩耗性を示すものの摩擦係数は高かった.硫黄系添加剤単独では摩擦係数を低減するが摩耗率は改善しなかった.両者を適切なモル比で混合するとよい相乗効果が発現した.さらに第一段階でリン系添加剤を,引き続いて硫黄系添加剤を鋼表面に反応させて調製した境界膜が低摩擦係数と優れた耐久性を示した.XPSとTOF-SIMS分析によって相乗効果を示す境界膜はリン系添加剤と硫黄系添加剤の両方から誘導されること,さらに最表面は硫黄系添加剤の反応性生物が主成分であることを見いだした.表面形状を制御した試験片を用いて両添加剤の反応性を比較したところ,凸部分には硫黄系添加剤が,凹部分にはリン系添加剤が反応することがわかった.すなわち,鋼表面を覆う酸化鉄とリン系添加剤が優先的に反応して耐摩耗性の被膜を,酸化物層がせん断で除去されて生じる新生面と硫黄系添加剤が反応して摩擦低減被膜を形成することがわかった. このように摩擦面の化学組成による添加剤の反応選択性を見いだした.この反応性をうまく組み合わせて摩擦のなじみ過程における境界膜構造の重要性が示唆され,平成18年度以降の発展課題とした.
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