研究概要 |
固体高分子膜を挟んでアノードからカソードに電気を流すと、アノード側の水素をカソード側に分離・昇圧する電気化学的濃淡電池を構成することができる。これまで、一部でその動作の確認は報告されているが、分離・昇圧特性の詳細は報告されておらず、工業的に応用できるか判断できる状況ではなかった。そこで本研究では固体高分子水素ポンプの分離・昇圧特性を実験的に求め、特性解析コードを作製し、その工業化の見通しを得ることを目的とする。 (1)単セルによる水素ポンプの昇圧特性 触媒電極を持つ固体高分子膜(MEA)をカーボンクロスのガス拡散層(GDL)で挟んだ温度60℃の単セル水素ポンプに電流を流し、60℃で加湿した大気圧アノード水素を4気圧まで昇圧し、カソード側に搬送することに成功した。この時、セル電圧はNernst起電力と抵抗過電圧、活性化過電圧を併せ、電流密度0.5A/cm^2で約150mVとなり、電流効率も100%に近く、良好な昇圧特性を示した。なお、電流密度0.1A/cm^2での消費動力は機械的断熱圧縮機の断熱効率65%に相当し、工業的に充分使えることが分かった。試験セルでは電流密度を下げるとMEAを通しての水素漏洩量が水素搬送量より少なくなるためか、電流効率は約80%まで下がり、カソード圧力が上がるとアノード側に膜が押されるためか、抵抗過電圧は上昇気味であった。引き続き、GDLの材質やMEAの支持構造を検討し、10気圧までの昇圧試験を続けている。また、構成膜の直列モデルを使った我々独自の膜物性測定法で、MEAの水蒸気に対する拡散係数と電気浸透係数、GDLの拡散係数を測定し、性能解析に使う膜物性データを収集した。 (2)単セルによる水素ポンプの分離特性 窒素で希釈した水素濃度10〜100%のアノードガスを、セル温度と加湿温度を60℃、両極の圧力を大気圧とし、カソード側に水素を分離する試験を行い、電流密度0.5A/cm^2まで100%近い電流効率で水素を分離することに成功した。この時、水素濃度の低下と共にセル電圧は150〜250mVと上昇し,抵抗過電圧は水素濃度に寄らなかったが、活性過電圧とNernst起電力は水素濃度の低下と共に増加した。セル温度と加湿温度を70℃にしても分離特性はほぼ同じであった。我々の固体高分子燃料電池の解析コードを改造し、水素分離ポンプの特性を解析したところ、電気浸透でカソードに移動した水蒸気はMEAの大きな拡散係数によりアノード側に戻るので、膜抵抗は流れに沿ってほぼ一様となった。また、膜抵抗と活性化過電圧は定抵抗性を示すため、電流分布も一様になると解析された。分割電極で電流分布を測定したところ、解析を裏付ける一様な電流分布が得られ、水素ポンプの基本動作を解析することにも成功した。
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