電力ケーブルの絶縁材料として広く用いられている架橋ポリエチレンの交流高電界下での電気伝導メカニズムを電荷挙動という観点から詳細に調べる目的で、電界発光と損失電流の二つの観測を同時に行うシステムの構築を進めた。平成18年度前期は、平成17年度に導入した電界発光観測装置(光電子増倍管(浜松ホトニクス社製R943-02)、高性能電子式冷却器(浜松ホトニクス社製C4877)、高感度CCDカメラ(浜松ホトニクス社製C9299-02))を制御するためのプログラムの開発を特に進めた。光電子増倍管からの信号は、既存のデジタルオシロスコープ(Tektronix社製TDS3052)を用いて観測したため、観測可能時間が200msと極めて短く、設定電界までの電界発光観測に7時間強という時間を要したが、パソコンからLabVIEWにより開発したプログラムで制御可能であることを確認した。同時に、フィルム試料の作製条件、観測条件等も検討した。特に電極は、金もしくは銀を真空蒸着することにより形成しているが、この蒸着電極の膜厚が、電界発光観測に直接影響することがわかり、詳細な調査が必要となった。膜圧・蒸着金属の抵抗・光の透過量等を検討することにより、損失電流波形観測と電界発光を同時に行うことができる条件を模索した。平成18年後期は、光電子増倍管起動時にノイズ発生量をモニタするプログラムの開発や光電子増倍管から得られた情報を解析するためのプログラムの開発を進めた。また、2月には、既存のデジタルオシロスコープの10倍の分解能で10秒間という長時間の観測を可能とする高性能デジタル・フォスファ・オシロスコープを導入した。これにより、観測時間は、実時間にほぼ近いものとなり、理想的な環境下で実験を行うことが可能となった。また、6月にカナダで開催された国際会議でナノコンポジット材料の電界発光スペクトルに関する報告が合ったことから、急遽、本システムにおいても300〜900nmの可視光領域で電界発光スペクトルを観測するための干渉フィルターを導入した。平成19年3月末の時点で電界発光と損失電流波形を同時に観測するためのプログラムがほぼ 完成した。今後、このシステムを用いて、低密度ポリエチレンおよびLDPE/MgOナノコンポジット材料の観測を進め、交流高電界下での電気伝導メカニズムを電荷挙動という観点から詳細に調査する。 研究成果の公開については、海外では6月にカナダ・トロントで開催されたISEIに出席し1件の研究成果を、10月にアメリカ合衆国カンサスで開催されたCEIDPに出席し、2件の研究成果を報告した。国内では、1月に沼津で開催された第12回高専シンポジウムに出席し1件の研究成果を、3月に富山大学で開催された電気学会全国大会に出席し1件の研究成果を報告した。また、6月の出張の際、研究上協力関係にあるカナダ国立研究所のBamji博士の研究室を訪問し、これまでの研究成果をもとに技術的な面での意見交換を行った。
|