電力ケーブルの絶縁材料として広く用いられている架橋ポリエチレンの交流高電界下での電気伝導メカニズムを電荷挙動という観点から詳細に調べる目的で、電界発光と損失電流の2つの観測を同時に行なうシステムの構築を進めた。平成19年度前半は、2つの実験を行った。1つは、試料として低密度ポリエチレンフィルムを用い、電界発光と損失電流波形を50〜200Hzの周波数域で同時観測し、両者の実験結果の関連性を調査した。その結果、電界発光パルスが正負各半周期の前半部分で生じること、電界発光パルス分布がピークを示す位相とほぼ同時か若干遅れて損失電流のピークが現れることなどを見出した。もう1つは、MgOナノフィラーの添加量が異なるLDPE/MgOナノコンポジットフィルムを試料として用い、台形波的な波形を印加電圧波形として用いることで、電界上昇率の違いや極性反転が与える影響を定量化し、交流高電界下で一時的に電極界面付近に形成される空間電荷が電気伝導に及ぼす効果について調査した。これらの研究成果を、国内外の学会において報告した。さらにカナダ国立研究所においてこれらの実験結果をもとに議論し、部分放電と電界発光現象の見分け方、表面プラズモンの影響などの情報を得た。これらの情報をもとに、実験システムのさらなる改良を図り、平成19年度後半は、低密度ポリエチレンフィルムとLDPE/MgOナノコンポジットを用い、交流高電界下での電界発光スペクトルと損失電流の関係、電界発光の発光パルス数の時間依存性と損失電流の基本波成分、第3高調波成分の時間依存性の関連性、電界発光の発光パルス数の周波数依存性と損失電流の基本波成分、第3高調波成分の周波数依存性の関連性について、意欲的に実験を行った。特に60kV/mmを超える交流高電界下では、電界印加直後の電界発光パルス数は極めて多く、フィルム試料を用いているにもかかわらず、正負半周期で特性が極めて異なるなど、これまでの損失電流波形単独の実験では明らかに出来なかった大変興味深い実験結果を得ることが出来た。
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