電力ケーブルの絶縁材料として広く用いられている架橋ポリエチレンの交流高電界下での電気伝導メカニズムを電荷挙動という観点から詳細に調べる目的で、電界発光と損失電流の2つの観測を同時に行なうシステムの構築を進めた。試料として低密度ポリエチレンフィルムを用い、電界発光と損失電流波形を50~200Hzの周波数域で同時観測し、両者の実験結果の関連性を調査した。その結果、電界発光パルスが正負各半周期の前半部分で生じること、電界発光パルス分布がピークを示す位相とほぼ同じタイミングで損失電流のピークが現れることなどを見出した。また、MgOナノフィラーの添加量が異なるLDPE/MgOナノコンポジットフィルムを試料として用い、台形波を印加電圧波形として用い、電界上昇率の違いや極性反転が与える影響について交流高電界下で一時的に電極界面付近に形成される空間電荷効果を前提にして考察した。これらの研究成果を、国内外の学会において報告した。さらにカナダ国立研究所においてこれらの実験結果をもとに議論し、部分放電と電界発光現象の見分け方、表面プラズモンの影響などの情報を得た。交流高電界下での電界発光スペクトルと損失電流の関係、電界発光の発光パルス数の経時変化と損失電流の基本波成分や第3高調波成分の経時変化との関連性について調査し、電界発光パルス数に関連した信号が損失電流の第3高調波成分に現れることや第3高調波成分の位相は数時間かけて極めてゆっくりと変化し続けていることなどが明らかになった。また60kV/mmを超える交流高電界下では、電界印加直後の電界発光パルス数は極めて多く、フィルム試料を用いているにもかかわらず、正負半周期で電界発光パルス発生頻度分布特性が極めて異なるなど、これまでの損失電流波形単独の実験では明らかに出来なかった大変興味深い実験結果を得ることが出来た。
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