研究概要 |
電波と光の境界領域に相当するテラヘルツ波(0.1〜10THz,1THz=10^<12>Hz)と呼ばれる電磁波帯域には薬品やタンパク質,DNAなど生体関連物質に由来する有用な指紋スペクトルが見出され,これを使った分光分析やイメージング技術は既存の医療/バイオ関連産業への応用が始まっているだけでなく新しい産業創出につながる可能性を秘めている。本研究は,テラヘルツ応用機器のキーデバイスの一つである広帯域高感度検出器の開発を目指しており,開発する検出器は,テラヘルツ波に敏感に応答する高温超伝導デバイスとそれを冷却する小型冷凍機によって構成する。検出器の性能は,現在テラヘルツ帯をカバーする最も高感度な極低温動作超伝導デバイスには及ぼないものの0.1THzから3THzを超える広い周波数帯域において現存する半導体検出器の約10倍の感度(比電力電圧応答:V/W)を目指している。 平成18年度は,高温超伝導ジョセフソン接合に集積化するアンテナを平面型対数周期型アンテナ(LPDA)からコプレナー導波路結合型スロットダイポールアレイ(CPW-fbd SDA)に改良した検出器を製作し,0.11〜0.16THzの周波数範囲でジョセフソン接合自体の高周波応答特性とダイナミックレンジ,ならびに高周波を検出器に導入する準光学系を含めたシステム全体の感度を評価した。その結果,CPW-Fed SDAを集積した検出器の最適動作周波数において約1,400(V/W)の感度を達成した。この値は,同様の接合にLPDAを集積したタイプの検出器を約6dB上回っている。この感度向上にはLPDAに比べて低いアンテナ放射インピーダンスを持つCPW-Fed SDAを採用したことによる接合抵抗との不整合損の改善が寄与していることは,数値シミュレーションの結果からも明らかである。残された不整合損にはさらに改善の余地があるが,それを実現するためにはアンテナの改善だけでなく接合抵抗を上昇させることも重要である。この点から多数の接合が直列に接続された固有ジョセフソン接合は,接合抵抗の大きな素子の候補として期待される。
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