研究概要 |
我が国の斜面の多くは地質的に崩れ易く,また天災も数多く発生することから,膨大な数の斜面が崩落や崩壊の危険性をもつ.その一方で,すべての危険斜面に対策を施すことは,限られた予算の中では不可能で,効率的な斜面防災の戦略立案のために,斜面の変状を把握する計測技術の確立を図ることが必須である.しかしながら,前兆現をとらえるための高精度のものを広範囲に実施する場合にはコストが高くなり,あるいは計測技術に熟練を要するなどの理由のために,充分な観測網が構築できていない.本研究はこのような背景を鑑み,安価で取り扱いが簡便,さらに広範囲を網羅し,リアルタイムに高精度で斜面の動きをモニタリングする技術を実現する.本研究は,2種類の技術からなり,一つはデジタルカメラで撮影した画像によって,危険な箇所を抽出し,その動きを計測するシステム.もう一つは岩盤に設置した発信機からの電波を,周辺に配置した受信機で受信し,その位相差から危険箇所の3次元変位をリアルタイムで計測するものである.この組み合わせにより,次の特徴を持った計測技術の構築が可能となった.(1)近づけない危険斜面でも,数km遠方から写真撮影を行うだけで,数mm以下の分解能で変位が検出できる.また,電波位相差を利用した計測では,斜面の3次元の動的な動きを数mmの高精度でリアルタイム計測することができる.(2)デジタル画像を利用した計測は,カメラ撮影だけなので誰にでも行うことができ,ハード機器に要するコストが極めて低い.また電波位相差を利用した計測においても,技術者の熟練は全く要しない.また電波の送受信機を含めた計測機器のコストは格段に安くできるため,計測システムの普及を図ることが出来る.本研究の期間内において,両技術を完成させることができ,研究課題である「広域リアルタイム斜面防災モニタリング」となる計測手法を実現させた.
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